伝統と革新と。ミニマリズムの大家が挑む、2つの高み

伝統と革新と。ミニマリズムの大家が挑む、2つの高み
革新、と一言で言っても、簡単なことではない。筆者が以前、耳にした世界的なアスリートの言葉で、こんなものがある。曰く、「他人の記録を塗り替えるのは7割、8割の力でも可能だが、自分の記録を塗り替えるには10以上の力が必要だ。」と。

世界に通用するアスリートも時計メーカー(時計師も含む)も、筆者はある共通項を持っているのはないか、と考えている。それは、「記録や作品を生み出す前に、膨大な時間を費やした、努力と工夫に裏打ちされた技術が必要だ」ということである。

H. モーザーはドイツのシャフハウゼンに拠点を置く老舗の時計メーカーだが、今年の新作は前述の要素を十二分に踏まえた逸品が、2つの形となって登場してきた。

■エンデバー・フライングアワーズ

190年の歴史を持つH.モーザーは今年、その歴史上で初めて、以前の時間表示方法に立ち返って、新しいディスクベースのシステムを開発した。そのメカニズムは、独立した現代の時計製造の源となった太陽系に着想を得ている、という。それは文字盤をご覧になっていただければ、なるほど、と感じていただけるものと思う。

まず、H. モーザーを象徴するファンキーブルー ダイアルでは、中央に240° で分を表示するサファイアのメインディスクがあり、時間の数字の付いた小さい 3 つのディスクを、その周りに配置。各歯車は、それぞれの軸を中心に回転し、太陽系を回る惑星や衛星を思わせる方法で時間を表示している。

240°の広角表示によりエンデバー・フライングアワーズでは、非常に正確に時間を読み取ることができる。時間のディスクは、見分けられないほどメインダイアルと一体化しているため、美しさが損なわれず、H. モーザーの象徴的なミニマリストスタイルをしっかりと貫いている。

さらに読み取りやすいように、現在の時間が白い数字で表示されて、分のディスクの後を追い、1 回転し終わると消滅し、代わりに次の時間が表示される「ワンダリングアワー機構」を搭載している。

この時計の開発は、H. モーザーの歴史の中でも重要な技術的マイルストーンとなった。エンデバー・フライングアワーズに搭載された C806 自動キャリバーは、H. モーザーの HMC 200 キャリバーに基づいて、グループ会社であるオートランス と H. モーザーにより共同で開発および製作されたものだ。

約3日間のパワーリザーブを備えた C806 ムーブメントは、ソリッド レッドゴールド製ローターで駆動される両方向巻き上げシステムを使用。脱進機とヘアスプリングは、H. モーザーとオートランス社の姉妹会社であるプレシジョン エンジニアリングの自社製造によるものとなっている。

これは、スイスの独立したファミリーグループである MELB Holding において複数の相乗効果が生み出されたことを意味する。まさに、自らのこれまでの資産を最大限、活かして次なる高みへと貪欲に進もうとするH.モーザーの意気込みが伝わってくる。

また、エンデバー フライングアワーズのストラップとして、素上げのベージュ クーズー レザーを選定。このモデルに斬新なタッチを加えており、全体としての洗練さも飛躍的に向上している。エンデバー フライングアワーズは 60 個限定製造となっている。